皆さん、こんにちは。歯科医院地域一番実践会 地域一番化マスター 岩渕龍正です。
「歯科医院経営基礎講座」の第3回です。前回の第2回では「歯科医院のマーケティングとは?」について解説しました。

「マーケティングピラミッドを拡大させていく活動、全てがマーケティングである」と。

今回の第3回は「歯科医院のマネジメントとは?」について解説いたします。

歯科医院のマネジメントとは?

このマネジメントについても様々な学術的定義があります。
しかし、私は歯科医院におけるマネジメントを以下のように定義しています。

右図の「マネジメントピラミッドを拡大させていく活動、全てがマネジメントである」と。

ちなみに、これは私が独自に作った定義ですので、普通の人はあまり知らないかもしれませんが、私はこれまで18年に渡る歯科医院経営コンサルティングの経験からこれが正しいと確信しております。

歯科医院における人材の重要性

ほとんどの院長先生が「歯科医院は人材が重要」ということは知っていると思います。
しかし、本当の意味で理解しているかというと、そうではないと思うのです。

同じ医療である、医科と比べると、その違いは歴然です。
例えば、私が以前にコンサルティングしたことがある眼科。
眼科であれば、眼科医1人で1日に100人診ることができます。
しかも、そこにアシスタントにつく女性スタッフがいるかというと、1人いれば十分です。
他には、受付が2人、眼圧の検査などを行うスタッフが2人、合計5人スタッフがいれば1日100人診れてしまうのです。

これが歯科医院だとどうなるでしょうか?
院長一人で診れる患者数は1日30人が限界。
そこにつくアシストも最低1人は必要。
1日20人診れる勤務医が2人、そこにつくアシストが2人、DHが3人、受付が2人は最低必要です。
院長以外に勤務医2人、DH3人、DA5人は必要になるのです。

つまり、勤務医2人、DH3人は眼科よりも多く人員を採用しなければいけないのです。

ちなみに、これが人件費でいうとどれぐらい違いが出てくるかと言いますと・・・
DHが1人最低300万円、Drが最低500万円の人件費だと考えれば、1900万円もの人件費の違いが出てくるのです。

歯科医院は一般企業よりマネジメント力が求められる

院長一人だけでは1日患者数30人ぐらいまでしか医院を伸ばすことができない、つまり、医院を伸ばしていくには医科に比べて圧倒的にマネジメント力が必要になるのが歯科医院なのです。

しかも、歯科医院の場合、大半の医科診療所とは異なり、予約制です。予約制だから時間を守らないといけないプレッシャーが非常に強く、それによる院長のストレス、イライラも強く働くことで、マネジメントがより難しくなっているのです。

ちなみに、先日、私が行った眼科では一部、予約制を取り入れているにもかかわらず、余裕で待ち時間が30分以上ありました。しかし、数が少ない眼科では、それを受け入れざるを得ないのです。選択肢がないから。

このように、非常に人材の重要性が高く、マネジメント力も必要とされる歯科医院でマネジメントについて、どのようなことが行われているかというと・・・

ほとんど何もされてない・・・

というのが現実なのです。
それじゃあ、医院は良くなりませんよね?という話なのですが、多くの院長先生はそのことをあまり分かっていないのです。

マネジメントピラミッドの解説

先ずは、マネジメントピラミッドの各階層の説明を簡単にしていきます。

潜在スタッフ:
うちの医院のことを知らないし、興味もないし、働く気もない人たち。

見込みスタッフ:
うちの医院のことに興味があって、いつかは働いてみたいなーと持ってるけど、まだうちの医院ではたらいことがない人たち。

新人スタッフ:
働いて1年未満のスタッフたち。

中堅スタッフ:
うちの医院の理念、方針、院長のことが好きで、自分自身を成長させよう、もっと医院を良くしようと頑張ってるスタッフたち。

幹部スタッフ:
仕事のレベルが高いのは当たり前と考え、それだけでなく、どうやったらもっと医院が良くなるかを真剣に考え、院長にも積極的に提案し、自分からどんどん行動を起こし、実際に医院を良くしてくれてる人たち。

マネジメントピラミッドの各階層に何人のスタッフがいますか?

では、あなたの医院では、今のマネジメントピラミッドの各階層について、何人ぐらいが該当しますか?

大半の医院では、本当の意味では「新人スタッフ」に該当するスタッフしかいないのではないでしょうか?

そして、意図的に、時間と労力を投資して、各階層のスタッフを育成しているかというと、ほとんど何もしていないのです。それじゃあ、医院はよくならないですよねという話です。

患者さんを増やすことが大事だと考えてる院長先生は多いと思います。
しかし、幹部スタッフを育てることが本当に大事だと考えて、時間とお金と労力を投入している院長先生はほとんどいないのです。

医院を安定化させる、つまり、歯科医院のマネジメントを安定させるには、このマネジメントピラミッドが拡大していくことが大事なのです。そのための取組みが不足すれば、それは医院が安定化することはないのです。

歯科医院と一般企業のマネジメント上の違い

しかも、歯科医院だけでなく、医科診療所にも共通する大きなマネジメント上の問題があります。それは、歯科医院などの診療所で勤めるスタッフの95%以上は女性スタッフであり、その大半が結婚・妊娠・出産を契機にどうしても、辞めてしまうかパート勤務になってしまうということなのです。

中小企業であっても、大半の企業には幹部と言われる人がいて、勤続10年以上とか20年という人がいるものです。そして、大半の場合、その方たちは男性です。

しかし、歯科医院の場合にはどんなに優秀なスタッフであっても、やはり、結婚・妊娠・出産によって、常勤で勤め続けるのが難しい現実があるのです。

もちろん、これから結婚・妊娠・出産後も長く勤められる体制作りは必要ですが、現時点ではかなり難しいです。なぜなら、歯科医院では診療の最終アポイントが18:30から19:00の枠であり、そうなると、最終的に診療が終わるのは19:30片づけをして帰るのは20:00、子供をお迎えに行けるのは早くて20:30という状態で出産後も長く勤め続けられるかというと相当、厳しいからです。

となると、歯科医院は常に、マネジメントピラミッドの各階層を育て続けなければいけないという宿命なのです。1人優秀な幹部がいれば大丈夫という簡単な問題ではないのです。

ということは、常に幹部スタッフ、中堅スタッフを育成し、優秀な新人スタッフを採用し続けなければいけないというかなりハイレベルなマネジメントが必要とされている業界特性があるのにもかかわらず、先ず、そのことを認識している院長先生がほとんどいないのです。

マネジメントで最も重要なのは「採用」である

それじゃあ、歯科医院のマネジメントが上手くいくわけないですよねという話です。 「前置きは分かったから、おれはどうしたらスタッフが言うことを聞いてくれるかを知りたいだけなんだ」という院長先生も多いかもしれません。

しかし、違うのです。これらのことをしっかり理解して、取組まなければ、恐らく、一生、院長先生の言うことをスタッフが聞いてくれることはないと思います。

なぜなら、歯科医院のマネジメントで最も重要なのは採用だからです。
そして、採用において歯科医院が取り組んでることは何でしょうか?

「今すぐ、働きたい人を求人広告で募集して採用する」

これで良い人が採れると思ってるのが間違いの始まりです。
もちろん、以前はこれでも良い人が採れました。特に、リーマンショック後などは。
不景気で、仕事がないから、歯科医院の求人であっても優秀な人が来てくれたのです。

しかし、今はアベノミクス効果もあり、人の採用が全国的に難しくなっています。
以前のようにタウンワークに1回8万円前後で求人広告を出して良い人を採用しようと思う考え方が甘すぎます。それほど現実は甘くない。

今、一般企業では1人採用するためにいくらお金をかけてると思いますか?
新卒採用に平均692.6万円(2014年卒マイナビ企業新卒内定状況調査より)もお金を使っているというのです。

そもそものスタートラインが違うのです。

歯科業界には良い人材が来ない!?

よく「歯科業界には良い人材が来ない」という人がいますが、とんでもない。
それ以前に、お金をかけなさすぎなのです。

次に「歯科業界には優秀な人材が働きたいという魅力がない」という人がいますが、意味が分かりません。それは魅力がないんだったら、作ればいいんです。

そして、ビックリするのが「●●歯科医院が給与を高く設定しているから、採用できない」という人がいます。だったら、もっと高い給与を払えるだけの医院にすれば良いだけの話です。

だって、うちの会社が「外資系コンサル会社が給与を高く払ってるから、うちが採用できない」なんて言ってたらどう思います?「この人は自分の会社に魅力がないのを外資系コンサル会社のせいにしてるなんて、経営者失格だな」と思いますよね?それと同じことです。

先ずは、もっと採用に時間とお金と労力をかけることです。

「猫の手採用」の先に待ってるものとは?

これまで18年もの長い時間をかけて歯科医院さん専門でコンサルをしているからよく分かります。全ての人が素晴らしい人材になるなんて思ってません。

やはり、ダメな人はダメなのです。
大切なのはどうやってダメな人を採用せずに、良い人を採用するかなのです。

しかし、そうはいってもよく分かります。
なかなか採用できない。人手が足りない。DHなんか、応募も全くない。
そんな状況だと、誰でもいいから採用したくなるのです。

しかし、そんな猫の手採用の先に待っているのはマイナススタッフ化したスタッフと誰も院長の言うことを聞いてくれない、返事もしてくれない、目も合わせてくれないような現実です。

「見込みスタッフ作り」と求人広告は同じではない

マネジメントピラミッドで最も大切なのは「見込みスタッフ」なのです。
しかし、99%の歯科医院では見込みスタッフ作りはほぼゼロです。何もやってません。
ですから、見込みスタッフは常にゼロです。

それでは、良いスタッフが採用できる確率は非常に低くなります。
「えっ、見込みスタッフ作りと求人広告は同じなんじゃないの?」と思いますよね。違うんです。

求人広告は「今すぐ、働きたい人を集めるための方法」であって、「見込みスタッフ作りとは、今すぐ転職したいわけじゃないんだけど、ここの医院でいつか働きたいなーと思ってる人たちを作ること」なのです。

じゃあ、見込みスタッフ作りはどのようにしたらいいのか?
それは医院の魅力をまだ働いたことがない人たち、つまり、医院の外にいかに情報発信していけるかです。

そのためには、現在であればSNSを活用する事が効果的です。特に、若い女性の多くが利用している、Instagramがお勧めです。ここで、医院の雰囲気や、院長先生&スタッフの人柄などがわかる写真を投稿していく事で、医院に興味を持ってくれる人や、実際に働きたいと思ってくれる人が増えていくはずです。

それと、スタッフからの紹介で採用することですね。
これをするだけでも、数年後には全く違う医院が出来上がるかもしれないぐらい重要な取組みです。

すぐには効果が出るわけじゃないんだけど、長期的に医院を良くする上では重要な活動を今、どれだけできるかが未来の医院を作るのです。目先のことばかりをやっていても、歯科医院経営は決して良くならないのです。

歯科医院でスタッフが成長しない理由

マネジメントピラミッドの階層でいうと、大半のスタッフが勤続年数は別として、新人スタッフレベルに留まってしまっています。

なぜ、こんなことが起きるのでしょうか?
それは、大きく分ければ2つの問題があります。

1.やり方教育の弊害

歯科医院で新人スタッフ教育といえば、何を教えるでしょうか?
・洗い物の仕方
・滅菌の仕方
・片付けの仕方
・導入の仕方
・レントゲン撮影の準備の仕方

などなど、全てやり方、やり方、やり方ばっかりです。
やり方ばっかり教えたらどうなるでしょうか?今のようになります。

つまり、仕事のやり方は分かった。でも、仕事のやる気はない。
そんなスタッフが出来上がるのです。

仕事のやり方も大事です。
でも、もっと大事なのは「仕事へのあり方」です。

あり方が間違っていれば、いくらどんなにやり方を教えても、マイナススタッフにしかなりません。違うのは仕事がどれぐらいできるかだけであってマイナススタッフであることに変わりはないのです。

マイナススタッフだけど、仕事ができるスタッフに育つと、なおさらやっかいです。
なぜなら、仕事ができるだけに院長も辞められたら困るから、どんどん何も言えなくなります。

それだけでなく、仕事ができるだけに、後輩スタッフ・新人スタッフへの影響力が大きいのです。そうなると、もはや、院長よりも、そのスタッフの方が影響力が大きくなったりしてしまうのです。

院長の言うことは聞かないけど、そのマイナススタッフの言うことは聞く。
そんなヒドイ状況は全国のいたるところで起きているのです。
そして、そうなってくると、院長先生が月曜日の朝に、自分の医院なのに、「行きたくないなー」とふと思うようになってしまうのです。

2.院長とスタッフの関係性の問題

マネジメントピラミッドの階層でいう「中堅スタッフとはうちの医院の理念、方針、院長のことが好きで、自分自身を成長させよう、もっと医院を良くしようと頑張ってるスタッフたち」と定義しました。

しかし、どうでしょう?これに当てはまるスタッフが何人いますか?
大半の医院ではかすりもしないひとばかりなのです。
なぜでしょうか?

それはそもそもの「院長のことが好き」ではないからです。
女性スタッフの多くは「それが正しいかどうかよりも、その人のことを好きかどうか」でその人の言うことを聞くかどうかを判断します。

なので、院長先生のことが嫌いだと、マネジメントピラミッドは崩壊し、医院は崩壊する方向へと向かうのです。後は、いつ崩壊するかという時間の問題だけです。

ではなぜ、院長先生のことを嫌いになってしまうのでしょうか?
それは・・・

・院長先生がいつもイライラし
・院長先生がいつも怒り
・院長先生がいつもできてないことばかり指摘し
・院長先生がスタッフと全然、会話をしない

からです。

もちろん、院長先生からすれば「いつもではない!」と思うと思います。
しかし、女性スタッフの立場からすれば、週に1回でも、このようなことが続けば「いつも」ということになるでしょうし、1回でも怒られれば、「院長先生は私のことが嫌いなんだ」と思うのです。

なので、もし、マネジメントの状態が安定しない、スタッフのやる気がない、スタッフが言うことを聞いてくれないのだとしたら、それは女性スタッフとの関係性構築のために、院長先生はかなりスタッフへの接し方を変えていく必要があると思います。

次の中堅スタッフ作り、幹部スタッフ作りについては勤続3年目以降のスタッフに「歯科医院スーパースタッフ育成塾」に参加してもらうことをオススメします。

まとめ

このページでは、歯科医院経営におけるマネジメントの話をしてきました。

繰り返しになりますが、歯科医院においては一般企業よりもマネジメント力が求められます。それは、他の診療と比較しても、1日に診ることのできる患者数が少なく、そしてより多くの人員配置が必要となる事から、一人一人の生産性が極めて重要になるためです。さらに、歯科医院のスタッフの大半が女性であり、結婚・妊娠・出産によって、長く勤め続ける事が難しいという事情もあります。

そのため、歯科医院では常にスタッフを採用・教育する仕組みを作り、このサイクルを回し続ける必要があります。ここで、人手が足りないからと猫の手採用に走ってしまうと、そのスタッフによって医院を破壊されてしまう可能性もあります。とにかく、良い人材を採用し、良い教育を施していく事が大切なのです。

以上で、歯科医院経営基礎講座のマネジメント編と、全3回の歯科医院基礎講座の内容を終了します。

最後に、最も大事な事を言います。
それは、ここで学んだ内容を実行に移す事です

ここまで読んできて「良い話を聞けたなー」で終わってしまうと、あなたの医院は何一つ変わりません。変化を起こすためには、行動に移すしかないのです。今あなたが抱えている課題は、あなたにしか解決ができません。

その過程で、様々な課題にぶつかり、今まで経験した事の無い試行錯誤が必要になる事もあるでしょう。しかし、ここで歩みを止めてしまうと、あなたの医院は今まで通りか、下手をすると今よりも悪い状況に陥ってしまいます。

自分1人での実行に限界を感じた時は、歯科医院経営基礎講座の第1回でも述べたように、専門家の力を借りる事も検討してみてください。弊社では、代表の岩渕による無料経営相談も行っております。壁にぶつかったと感じた時は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

あなたの医院経営が上手く行くことを願っています。

1.歯科医院経営とは?

「なぜ、うちの医院経営は上手くいかないのか?」「なぜ、歯科医院経営を学ぶ必要があるのか?」これらのお悩みや疑問を持たれている方は、まずはこのページから「歯科医院経営の基礎」を学びましょう。

2.歯科医院のマーケティングとは?

「新規患者が増えない」というお悩みを抱えている先生へ。それは、マーケティングの考え方とアプローチに問題がある可能性があります。本章で、マーケティングの基礎について学び、ご自身の取り組みを振り返ってみましょう。

歯科医院地域一番実践会 人気YouTube動画